第2章 おめでとうをあなたに…
次の日
針子の仕事を終え、自室に戻ると空がきれいな茜色に染まっていた。ぼ~っと空を見ながら昨日の光秀さんの話を思い出す。
まさか…光秀さんにあんな過去があったなんて、知らなかったな。
お誕生日のことはもう触れない方がいいよね。
残念だけど、こればかりはどうしようもない。
私は地面に目線を落とし、小さくため息をついた。
その時
「杏様、いらっしゃいますか?」
襖の向こうから聞き覚えのある声。
…この声は
「三成くん?」
「はい、失礼しますね」
スッと襖を開け、天使のスマイルを私に向ける三成くん。
本当に今日も笑顔が眩しいな。
…もちろん、私もつられて笑顔になる。
「三成くん、急にどうしたの?」
「実は、信長様が至急杏様をお連れするようにとおっしゃいまして。…なんでも極秘で会議を開くそうです。」
『至急』という言葉に私は、
ほんの一瞬、息が止まる。
「ご、極秘会議に私が…?」
「はい」
どこか神妙な面持ちを三成くんの顔を見ると
少しだけ嫌な予感がした。
軍議じゃないから戦ではないんだろうけど、
…なにかあったのかな―――…
その時、なぜか一瞬光秀さんの顔が頭に浮かび、顔が青ざめる。
「…杏様?」
心配そうな顔で名前を呼ばれ、
はっと我に返る。
「っ…!な、なんでもないよ。行こっか」
私は胸騒ぎを隠すように…ううん。
嫌な予感が勘違いでありますようにと
祈るように笑顔を向け、
三成くんと一緒に部屋を出たのだった。