第2章 おめでとうをあなたに…
「本当の誕生日は…俺も知らない。」
「えっ…?」
「…昔の話だ。ある雨の日、戦で怪我を負った武士が大きな湖の畔に立つ松の木の下で雨宿りをしていた。
しばらくすると雨宿りしていた木の反対側から泣き声が聞こえたそうだ。そこで不思議に思った男が覗いて見てみると
…そこには泣き叫ぶ赤子が捨てられていた。
―――――――――それが、俺だ。」
「だから、俺は自分の誕生日を知らない。
…すまないな。」
光秀さんはどこか遠くを見てから少し目を伏せ、寂しそうに笑う。
あまりにも寂しそうに笑う光秀さんの姿に
一瞬言葉を失い、胸が張り裂けそうな気持になった。
こんな顔をさせてしまった…
「っ…ごめんなさい。嫌な思い出を思い出させてしまって…」
私はぎゅっと光秀さんに抱き着く。
「…お前が気にすることではない。
ほら、もう今日は寝るぞ」
「…はい」
精一杯、微笑んだけれど
…やはり罪悪感が大きく、苦笑いになってしまっていたようだ。
「…仕方のないやつだな」
そういって光秀さんは優しく微笑み、
ちゅっ
と私のおでこにキスを1つ優しく落とす。
そして耳に口を近づけ
「おやすみ、杏」
低く甘い声で囁いた。
「っ…!お、おやすみなさい…。」
頬をほんのり桜色に染めながら私はなんとか告げる。光秀さんは微笑み、そして火照った私を優しく包み込むように逞しい腕を回した。
光秀さんの温もりと優しさを感じながら
私は深い眠りについたのだった。