第1章 【 君への贈り物 】
(これって…)
思わず目を見張る。
「家康…これ…」
左前身頃の胸のあたりに金色の糸で家康の家紋が刺繍されていた。
「…それは、杏が俺のものっていう証拠」
家紋が刺繍されている―――
これは家康の一族、つまり妻になったということ
家康なりの愛情表現であると瞬時に理解した。
『これから一生一緒にいる』そう言ってくれているのだ。
思わず幸せの涙を流しながら微笑み
(ありがとう…家康、大好き)
そう伝えるように家康を見つめた。
でもふと疑問に思った。
「…どうしてここに刺繍を入れたの?」
(家紋だったら、こんな控えめな場所じゃなくてもいいと思うんだけど…)
私は首を傾げて家康の顔を窺う
「それは…別にいいでしょ」
再び家康はふいっと顔を背けてしまった。
家康…隠すためにそっぽを向いたんだろうけど
頬や耳がほんのり桜色に染まっているの丸わかりだよ?
そんな不器用な家康が愛しくてついつい
手で口を隠すも、くすりと笑いが零れた。
(素直じゃないんだから…)
家康は私を見て目を細めた後、はあと大きくため息をつき諦めたように渋々
「…そこが」
「そこが…?」
家康は意を決したようにすっと息を吸い、まっすぐに私を見つめ
「…見えるところで杏の心臓に一番近いから」
家康の言葉を聞いた途端
体が沸騰するように熱くなり、言葉を失った。
「あー、もうっ…。(こんなこと言うつもりじゃなかったのに)…ほら、もう行くよ」
そう言って真っ赤な顔の家康は私の手を取り、外へと出かけた。