第1章 【 君への贈り物 】
私はいなくなった時に光秀さんたちに会ったこと
宿についたら家康に渡すように言われたことを話した。
家康は「ふ~ん」とだけ言って私から四角いものを受け取る。
(なんだろう、家康全然驚いてない…。まるでこうなることを何となく予想してたような…)
私はじっと家康の顔を覗き込む…
けれど、長くは目を向けられなかった
湯上りで猫毛が強くなっているし、顔も火照ってて色気も増してるし
…何よりいつもと違う浴衣姿に特別な場所
それらが合わさり、私の心臓がドキドキと鳴りやまない。
(し、心臓に悪すぎる…)
心の中で葛藤していると
「…っ、…杏っ!」
家康が何度も私の名前を呼んでいた。
「えっ、はいっ!!」
ようやく我に返った私は慌てて家康の方を向く。
すると家康は呆れた顔をする
「もうすぐ食事が来るみたいだから、さっさと入りなよ」
「う、うん。…あれ?家康はどこかいくの?」
「ちょっと仕事。…食事の後少し出かけるから。そのつもりでいて」
(今から仕事?…食事の後にはお出かけ…)
よくわからなかったけど、とりあえず「うん」とだけ返事をした。
家康は不思議に思っている私の様子を気にすることなく、視線を逸らし、部屋を出て行った。