第1章 決意
『だ、誰ですか……!』
「僕だよ」
『だ、だから、誰ですかっ……!』
周囲をきょろきょろと見回しても誰もいない。
『も、もしかして……ゆーれい……』
「くくっ、馬鹿だろ、あんた」
幽霊に馬鹿扱い……。
「こっち」
声のする方へと視線を送ると、隣の部屋同士のバルコニーの仕切りの端から手が出ていた。
そこへ恐る恐る近づく。
『あっ!』
手すりから少し身を乗り出した、来さんが顔を覗かせた。
『来さん……!』
「そうだよ。幽霊って……くくっ」
『そ、それはもういいじゃないですか!』
なんか、壁を挟んで話すのって、変な感じ。
嫌ではない。
新鮮で楽しい。
来さんの笑い声が止み、しーんと辺りが静まり返る。
『……あの』
「なに?」
『部屋、綺麗にしてくれたの、来さんなんですよね?律さんから聞きました。ありがとうございます』
なんだそんなこと、と来さんが呆れたように言った。顔は見えない。手すりから身を乗り出さないと、お互いの顔は見えないから。でも、なんとなく想像はできた。