第11章 恋
キッチンを出たレナは、女部屋に向かおうとしていた足を止めた。
(そういえば不寝番って確か……)
不寝番で展望台にいるであろう人物に会うため、レナは展望台に向かった。
「おはよう、ゾロ」
展望台でトレーニングに励むゾロに声をかけた。
「おぅ。…今日は早ぇな」
ゾロはダンベルを床に下ろし、そばにあったタオルで汗を拭った。
「うん…今日からね、また食事の支度手伝う予定だったんだけど…サンジに断られちゃった」
ゾロはチラリとレナを見た。
「一人の方がはかどるって。私、けっこう役に立ってると思ってたんだけどな…あんまり記憶はないんだけど」
「…そうか」
ポツリと呟くような反応を示すゾロ。
「もしかして、何か気に障ることでもしちゃったのかな…ねぇゾロ、何か知らない?」
「…知らねェな」
ゾロは興味なさげに言った。
「小さなことでもいいから何か…」
「もうあの野郎の話はするな」
「…え?」
レナは一瞬、耳を疑った。
「これ以上、アイツの話はするんじゃねェ」
ゾロは冷たくそう言い放った。
レナの中で何かがプツン、と切れた気がした。
「……何でそんなこと言うの」
そう言った声は震えていた。
「目が覚めたら何日も経ってて…記憶もなくて…何があったのかも教えてくれない。皆が決めたのなら無理にはきかないよ…けど毎日考えるの。私に何が起きたんだろうって」
レナの声が少しずつ大きくなる。
「それでいきなりゾロと付き合ってるって言われて…サンジには邪魔者扱いされるし、私だって色々混乱してるの!ゾロのこと、仲間としてはもちろん好きだけど、恋愛感情があるかって言われたら…正直わからない」
ゾロは無言でレナを見ていた。
「この一週間も恋人らしいことは何もしていないし…ほんとに付き合ってるのかなって何度も思ったよ」
レナは目に涙を浮かべている。
「本当に私の恋人なら…話くらい聞いてよ…恋人らしいことしてよ!」
こんなに感情的になったレナを見るのは、初めてだった。
レナの目に溜まった涙が一筋、頬を伝った。
その涙を拭い、レナはくるりとゾロに背を向け早足で展望台を出て行ってしまった。
ゾロは何も言えないまま、その場に立ち尽くしていた。