第11章 恋
「久しぶりだね、一緒にキッチンに立つの」
サンジのよそよそしさを感じてはいたが、レナは配膳の準備などをしながら話しかけた。
「サンジが調理補助の仕事を作ってくれたから私、この船に乗ろうって決心できたんだよね。色々忘れちゃってるみたいだけど、そこは覚えてるよ」
レナは明るくそう言った。
「毎日サンジのこと手伝ってたと思うんだけど…その割にサンジの記憶がないんだよね…ねぇ、私との思い出、何か言ってみて!平凡なのでいいから」
レナは手を止め、サンジを見た。
サンジは先ほどより少し、顔色が悪くなったように見えた。
「レナちゃん……やっぱり調理補助は…要らないよ…」
「…え?」
予想外の言葉に、レナは耳を疑った。
「ここ最近、一人でやってただろ。そしたらやっぱり…一人の方がはかどるっつぅか…やりやすいんだ。だからもう、手伝ってくれなくてもいいよ」
サンジはレナを見ながら、静かに言った。
「…そうなの?…私、足手まといだったの?」
レナは泣きそうな顔で聞き返した。
「足手まといって訳じゃないんだが…長い間ずっと一人でやってきたから……ごめん」
「…そっか…サンジと一緒に料理するの、楽しかったから…そんな風に思われてたのに、気づかなくてごめんね」
レナはそう言ってキッチンを出た。
一人になったサンジは、歯を食いしばり拳を震わせていた。
(レナちゃん…ごめん……)
酷いことを言ったのは分かっていた。
しかし、これから毎日あんな風にレナと過ごすのは無理だった。
何より、例え食事の準備のためだろうとレナと一緒にいる資格なんてない。
(俺がどれだけひどいことをしたかも知らないで…笑顔を向けられるのは……辛い…)
サンジはこの一週間、できるだけレナと顔を合わさないようにして過ごしてきた。
まさか今日、いきなり手伝いに来てくれるなんて思ってもいなかった。
サンジと付き合っていた記憶は失くしているが、その他のことは少し覚えているようだった。
しかしサンジにしてみると、全て忘れていて欲しかった。
(今忘れちまってることはもう…永遠に思い出さないでくれ…)
自分勝手と分かっていながら、サンジはそう願わずにいられなかった。