第10章 記憶
「俺とお前は…付き合っていた」
ゾロが平然とそう言い、椅子から立ち上がってレナに近づいていった。
サンジはゾロを睨んでいたが、何も言えなかった。
「嘘よ…だってゾロが恋愛なんて…興味なさそうだし…」
すぐ隣まできたゾロに向かって、不安げに言ったとき…ゾロがレナの頭の後ろに手を回し、キスをした。
レナは驚いて目を見開いた。
サンジは握りしめた拳を怒りで震わせ、歯を食いしばっていた。
他の仲間はそれぞれに、驚いていたり、呆然と見つめていたり、ちらりとサンジの方を見たりしていた。
しっかりと合わされた唇は、数秒後に離された。
「嘘じゃねぇ」
そう言ったゾロの瞳は、真っすぐレナを見つめていた。
突然の出来事に赤面し、あたふたするレナ。
「ちょっ…ほんとに私とゾロ、付き合ってたの?」
仲間たちを見渡しながら質問した。
誰も、何も言わなかった。
それは違うということは全員知っている。
しかし何が正しいのか、何がレナにとって幸せなのか、誰にも分からなかった。
ゾロがレナのことを大切に思っていたのは、皆知っていた。
サンジが原因でこうなってしまった以上、サンジと付き合っていたことは、誰も言い出せなかった。
誰も否定しなかったため、レナは本当のことだと受け止めた。
突然のキスで少しパニックに陥っていたレナは、誰一人否定もしなかったが、肯定もしていないことに気づいていなかった。
「何か恥ずかしいんだけど…。ゾロ、忘れちゃってごめんなさい。これからよろしくね」
ゾロに向かって、笑顔でレナは言った。
他の仲間は皆心配そうな、気まずそうな顔で二人を見ていた。
サンジは二人を見ていられず、下を向いていた。