第1章 ● はじまりの唄
しばしの沈黙が流れていく。
そんなとき、ふと、思い至った。
私、まだ伝えてない。
菅原くんは言葉にして伝えてくれたのに、私まだ何も伝えてない。
言わなくちゃ。
ちゃんと、自分の言葉で。
「……会いたい」
ス、と吸いこんだ息。
溢れるほどの恋しさで胸をいっぱいに満たして、夜空に響かせるのは心からの願い。ほんとうの気持ち。
「私もね、すっごくすっごく、すっごー……く! 孝支くんに会いたい!」
私が結構な声量で言ってしまったからなのか。非常に熱のこもった「会いたい」を吐露したからなのか。
理由は定かではないのだけれど、次に彼から返ってきたのは『……ははっ!』という笑んだ声。
「えっ、う、……私、なにか変なこと言っちゃった、かなあ?」
そこまで問うて、自答した。
いや言ったよね。
むしろ言いまくってたよね。
早口でマシンガントークしたりポエミー披露してみたり、挙句の果てには彦星ゲットしたとか何とか。
それに加えて興奮ぎみに「会いたい!」とか言われたら笑っちゃうよね。おかしいよね。
……私、電波ちゃんと思われてもしょうがないや。我ながら不思議ちゃんすぎて泣きたくなる。嫌われちゃったりしたらどうしよう。
鬱々と。
延々と。
つまらない考えをぐるぐる巡らせていた私を救ってくれたのは、やっぱり彼の、──孝支くんの、やさしい声なのでした。
『や、違くって、おんなしだなーと思ってさ。考えてること』
ボールのように弾んだ声音。
心なしか台詞がくぐもって聴こえるけれど、そんなのは気にしない。孝支くんが嬉しそうだから、それでいい。
なんだか私までうれしくなる。
「おんなし?」
ぽんと弾ませた問いには、ガサゴソという音だけが返ってきた。衣擦れ、みたいなの。
恐らく、きっと、お布団かベッドかソファに寝転がってるのかな。
そんな想像をしながら、おずおずと、改めて問いかけてみる。