第1章 ● はじまりの唄
「……私たちも、会えるかなあ?」
再度手を伸ばす空。
赤雲の、その先へ。
「ちゃんと、……会える、のかな」
高校生が自らの力だけで渡るにはちょっぴり深い天の川。そんな不安から出てしまった脆弱を、彼がそっと搔き消してくれる。
『……大丈夫。夕璃、自分で言ってたべ? 彦星さま、つかまえたって。それに──』
ほんの少しの間。
二回目の衣擦れ。
のちに聞こえた彼の声は、今までのどんなそれよりも温かで。
『織姫と彦星だって、ちゃんと会えてるんだから』
孝支くんの台詞が耳に落ちた瞬間、眼前にあるはずのない満天が広がる。
濃紺の夜を埋めつくす星。
彼が見ているであろう空。
輝きが散りばめられた川を渡って、一年に一度の逢瀬を楽しむ恋星たち。
「……そっか、そうだよね」
孝支くんの空では、織姫さまと彦星さま、会えてるんだもんね。
「うん! 私たちだって会える、会えるよね!」
高鳴っていく胸。
とくとく。
とくとく。
早足で歩く鼓動が心地いい。ころころと声が笑むの。なんだか、心がくすぐったくて。
「んもー、今すぐにでも宮城に飛んでっちゃいたい!」
『行くよ。俺が、会いに行く。……夕璃と違って、今すぐ飛べたりはしないんだけどさ』
「へ、……ほ、本当に?」
『うん、ほんとに。だから夕璃は、宿題全部終わらして待っててな!』
「っん、ぐう、ハイ、めっちゃがんばりマス」
おうふ、宿題。
痛いところを突かれてしまった。一気に現実に引き戻されて、恐る恐る後ろを振りかえる。
閉じたサッシを挟んだ向こう。
いかにも男くさい木兎の自室では、なぜか赤葦を対象としたプロレス大会が開催されていた。いや原因は私か。
ごめん、赤葦。
せめて安らかに。
心中で今一度の謝罪と合掌をして、薄情にも現実から目を反らす。