第1章 ● はじまりの唄
そ、っか、そうだよね。
住んでる場所が離れてるって、悲しいことだけじゃないんだ。こうして互いの見てる世界を交換したり、分かち合ったり。
別々、なんじゃなくて。
はんぶんこなんだ。
この国の空を、はんぶんこ。
離れているからこそ。
離れていなきゃこそ。
当たり前のように隣にいたら分からないこともある。声を聴くだけで息ができなくなるほど恋しくて、愛おしくて。
傍にいるのが普通だったら、こんな風には想えないんだ。
それってきっと、すごく尊いこと。
「ふふ、菅原くんてば、案外ロマンチスト」
今度は自然と笑みがこぼれた。
共鳴するようにして彼からも漏れる、小さな笑声。
空の交換、かあ。
すてきな言葉。
菅原くんらしい。
私が渡した空はお世辞にも綺麗とは言えないけれど、彼から受けとった空は幾千の星。
落っこちそうな星空ってどんなだろう。手を伸ばせば掴めそうなほどたくさんの星がある、とか、かな。
『なあ、夕璃』
おもむろに、五指を広げて。
そこにあるはずのない星を捕まえようと、空(くう)を彷徨わせる。
「んー?」
届くわけがないのに背伸びなんかしていたせいで、ちょっと間伸びした返事になってしまった。
その、次の瞬間だ。
『会いたい。俺、いま、すげえ夕璃に会いたい』
唐突な低音に肩が跳ねて。
ちょっと掠れた男らしい声に、意識を撃ち抜かれた。
「…………」
『その、……夕璃?』
びっくりしすぎて思わず握りしめた手。閉口した唇。ぎゅううとネイルの食いこんだ掌が、強く強く脈打っている。
「……彦星さまゲットだぜ、だよ、菅原くん」
本当に、星が落っこちたの。
『…………ん!?』
彼から盛大な疑問符が返ってきても、まだまだ私は惚けたまま。
ああ、どうしよう。
何か言わなくちゃ。
そう分かってはいるのに声帯が動こうとしない。この気持ちを表現するのに最適な言葉を、私は知らないのだ。