第1章 ● はじまりの唄
『そっか、こっちのは月遅れだもんなー』
なんとはなしに繋がっていく会話。
私の必死さを笑うわけでもなく。
もちろん、馬鹿にだってしない。
ふわり柔らかな彼の声。
菅原くんの紡ぐ言葉が、そっと、そっと、耳に滑りこんでくる。
『俺も、さっき地元歩ってたちび達のうた聴いて、……そんで、夕璃のこと考えてた』
彼の、その声が。
私のことを考えていたと告げてくれた声色が、わずかに曇っていることにも気付かずに、私は。
『だからその時に電話きて超びっくりしたし、だけどすげえ嬉し、かった』
私は、ただうれしくて。
こうして互いの喜びを共有できるだけで天にも昇れるくらい。だから、菅原くんの【想い】に気づくことができなかったんだ。
『なあ、夕璃のとこからは、どんな空が見える?』
どんな空。
そう、問われて。
見上げる空。
赤い、曇天。
そこでやっと理解できた。彼の声が物憂げに聴こえた理由。その真意。
きっと全然違う、ふたりの空。
「私の見てる空はね、真っ赤だよ」
自然と声のトーンが低くなる。
連絡先を交換してから毎日のように交わしていた言葉や文字。
ネットが普及した情報化社会のおかげで意識せずにいられた距離を、物理的に突きつけられたような。
そんな、感覚。
『真っ赤……?』
「うん。空が曇るとね、地上の灯りのせいで真っ赤に染まるの」
それが東京の曇天だ。
私が見てきた空。
もし仮に晴れていたとしても、星なんてほとんど見えない。
『こっちは、……織姫と彦星の夜空だよ。落っこちてきそうだ』
ほら、ね。
全然違う。