第1章 ● はじまりの唄
「もしもし、菅原くん!?」
『もしもし、夕璃!?』
急きこんで告げたのは電話特有のあいさつと、互いの名前だった。
ふつと途絶えたコール音。
ふたり同時に発声して。
ふたり同時に絶句して。
そのまましばらくの沈黙。
彼の声が聞こえた喜びと、何から話そうという迷い。その両者がごちゃまぜになって上手く言葉が出てこない。
ど、どうしよう。
なにか言わなきゃ。
焦って悩んで考えあぐねた末。
──突然電話してごめんね。そう伝えようと決心して、私は唇を動かした。
その、刹那のこと。
『ごめん、嬉しくってだんまりしちゃった。夕璃?』
夕璃。
彼が、私を呼ぶ。やわらかな声が聴こえた。じわりと広がる温かな熱。
「っわ、私もうれしい!」
ほとんど反射だったと思う。
菅原くんが伝えてくれた「嬉しい」がうれしくて、うれしくて、それから、うれしくて。
もっと気の利いた言葉とか、台詞とか。探せば色々あるのかもしれないけれど、自分の「うれしい」を伝えるのに精一杯で。
「あのね、東北は今日が七夕だって聞いたの。そしたら急に菅原くんの声が聴きたくなっちゃって、ううん、いつも聴きたいって思ってるんだけどね、だからこうして声が聴けてすごく、……うれ、しい、デス」
言いながら、ようやく気付いたのだ。
自分がとてつもなく恥ずかしいことを言っているという事実に。
しかも、彼が相槌をうつ暇もないくらい早口になってしまっていた。
これじゃまるで残念な子だ。
痛いにも程があるし、穴があったら頭からダイブして一生出たくない。それくらい恥ずかしい。
そんなことを考えて言葉尻とともに萎んでいた私だったのだが、しかし、返ってきた声はけろりと爽やかで。