第1章 ● はじまりの唄
恋、という単語が響いた途端。
赤葦がボンッと顔から火を噴いた。
ついでに木兎がガバッと顔をあげた。居眠りしようとしてたくせに、ものすごい速度で。
「あかーしが恋だとーー!? 誰に?いつから? どんな子?かわいい子?」
「木兎さん黙って下さいマジで」
「まさかもう付き合っちゃってたりとか、……っあーー! お前、こないだの花火大会! 俺の誘いを断った理由はそれか!女か!羨ましい!!!」
凄まじくうるさい木兎のおかげで(せいで)勉強会は完全に中断。
「馴れ初めは?」
「写メは?」
「もうヤッた?」
他のメンバーも混ざって赤葦を質問攻めにしている。
ごめん赤葦。
悪気はなかったの。
自分のことを話すのがあまり得意ではない後輩に心中で謝罪して、私は戦線を離脱した。
ありていに言えばベランダに出たのだ。彼のことが、──菅原くんのことが、恋しくて。
握りしめたスマホ。
電話帳から彼の名前を探しだして、ふうと深呼吸。熱帯夜の風が頬を撫ぜる。
少しだけ。進学クラスに通う彼の受験勉強を邪魔しないように。少し、声を聴くだけだから。
そんな言い訳を呟いてから通話ボタンをタップすると、スピーカーの向こうから潜もった電子音が聞こえてくる。
一回
二回
コール音の数だけ胸が高鳴って。
(ささのは、さらさら)
私は、はるか東北の空の金銀砂子に想いを馳せた。