第1章 ● はじまりの唄
「だー!だめだー! もう無理!」
「俺も!俺も無理! 勉強やだ!」
「うるせえダブル馬鹿」
「真面目にやんないと終わんないよ」
「小見と木兎は留年決定だな」
梟谷排球部スタメン三年生組、目下奮闘中。戦地は木兎宅。敵は溜まりに溜まった夏期講習の課題プリントと、受験勉強が少々。
赤葦と私が召集されたのは先生役としてである。
いや、俺二年生なんスけど。
頼れるスーパー副主将の彼がそうぼやいたのは言うまでもなく。
ちっとも進まない勉強会に辟易していた私のやる気スイッチは、とうの昔に切れていた。
(……月遅れの七夕、かあ)
ぽやんとした意識は彼一色。
未だ小難しい説明を続けている赤葦のことは、忘却の彼方。
菅原くんもお願いごととかしたのかな。彩りの短冊に煌めく星々、ミルクを流したみたいな夜空の川。どんな七夕を過ごしてるんだろう。
ふと、宮城の星空を想像して。
おもむろに見やった東京の空は星ひとつない。分厚い雲に覆われた、赤い、赤い、真っ赤な曇天だった。
「説明は以上です。分かりました?」
「っへ? ……ああ、うん、赤葦って意外と唄うまいんだね。好きな人でも出来たの?」
「………は? いえ、あの、なんで急にそういう話になるんです」
「んー、だって、ほら、柄にもなく鼻唄なんて歌ってたから。最近やたらと機嫌もいいし、さっきからずっとスマホ気にしてる。恋してる証拠、でしょう?」