• テキストサイズ

(HQ) 夏恋色の空

第1章 ● はじまりの唄




「だー!だめだー! もう無理!」

「俺も!俺も無理! 勉強やだ!」

「うるせえダブル馬鹿」

「真面目にやんないと終わんないよ」

「小見と木兎は留年決定だな」


 梟谷排球部スタメン三年生組、目下奮闘中。戦地は木兎宅。敵は溜まりに溜まった夏期講習の課題プリントと、受験勉強が少々。

 赤葦と私が召集されたのは先生役としてである。

 いや、俺二年生なんスけど。
 頼れるスーパー副主将の彼がそうぼやいたのは言うまでもなく。

 ちっとも進まない勉強会に辟易していた私のやる気スイッチは、とうの昔に切れていた。



(……月遅れの七夕、かあ)



 ぽやんとした意識は彼一色。

 未だ小難しい説明を続けている赤葦のことは、忘却の彼方。

 菅原くんもお願いごととかしたのかな。彩りの短冊に煌めく星々、ミルクを流したみたいな夜空の川。どんな七夕を過ごしてるんだろう。

 ふと、宮城の星空を想像して。

 おもむろに見やった東京の空は星ひとつない。分厚い雲に覆われた、赤い、赤い、真っ赤な曇天だった。


「説明は以上です。分かりました?」

「っへ? ……ああ、うん、赤葦って意外と唄うまいんだね。好きな人でも出来たの?」

「………は? いえ、あの、なんで急にそういう話になるんです」

「んー、だって、ほら、柄にもなく鼻唄なんて歌ってたから。最近やたらと機嫌もいいし、さっきからずっとスマホ気にしてる。恋してる証拠、でしょう?」


/ 41ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp