第5章 ● 36.5℃の幸せ
会いたかった。
会いたかったよ、孝支くん。
あったかいね。
孝支くんの腕、あったかい。
焦がれて焦がれた熱がここにある。彼の体温に触れられる。洋服ごしに感じる鼓動。彼の生きてる音。
本当に孝支くんだ。
本当に本当に、会えたんだね。
泣いちゃだめなのに。メイクが崩れちゃうのに。でも、もう、むり。堪えきれなかった涙がこぼれだす。
我慢してもどうしても漏れてしまう嗚咽。孝支くんの腕がそっと、その強さを増して。見上げた白銀は優しさの星。
マスカラを伝って落ちていく滴を、彼の男らしい指がつ、と掬った。
あ、れ。
もしかしてこれ、このまま、キスしちゃったり、とか──……
「あんのお、浅草ってのはどうやって行けばいんだかいね?」
?!!
吃驚、仰天、そして動揺。
突如として投げかけられた質問に驚きすぎた私たちは、ぱっ!
まったく同じ動作で互いから距離をとった。ものすごいシンクロ率だ。男女混合ペアのシンクロナイズドスイミングとか出たら金メダルも夢じゃない。しかしそんな種目はない。
じゃ、なくて。
違う意味でどきどきと喧しい心臓もそのままに振り返った先。ちょこんと立っていたのは可愛いおばあちゃん。
ちっちゃな身体にそぐわない大きな荷物を背負って、こちらを見つめてる。
絵に描いたような愛らしいおばあちゃんの姿に、ふふ、と小さな笑みが漏れて。視線をスライドさせると、隣で笑んでいるあなたと目が合った。