第3章 ● ハートビート・イヴ
満足げに鏡を見つめて、よし、って頷いて。次はネイルを何色にしようか考える。
夏らしい元気な色がいいかな。
パステルカラーも捨てがたい。
でも、今回はやっぱりこれ、だよね。
星型のホログラムで満たされた夜空色。小瓶に詰まったミッドナイトブルーを手にとって、指先のキャンパスを彩っていく。
右手と、左手。
全部の指に夜空色を塗って、ついでにペディキュアもしてみたりして。
すべての爪を飾り終えた頃にはもう、テレビ画面のデジタルクロックが23:02まで刻を進めているところだった。
迫る逢瀬に思い巡らす夜更け前。
つけっぱなしにしていたテレビの音。白球を追う球児たちの熱戦が、ダイジェストで報道されている。
宮城代表は知らない名前の高校だ。
それもそうかとひとり納得して、宮城と西東京、双方の武運を祈った。
私たちも頑張らなきゃなあ。
ぼんやりと思うのは宿木の。毎日猛暑のなか、ヘロヘロになりながら練習している皆の姿。
今年はどんな御守りを作ろうかな、なんて。
マネらしく思案していたところで、メッセージアプリの通知音。ぽこぽこっ。可愛らしい音がして。
【もうすぐバス乗るよ!】
心臓がどきんって跳ねた。
ものの喩えとか、そういうお話ではなくて本当に、そうなった。どきどき。どきどき。痛いくらいに拍動している。
そんな自分を落ちつかせるようにして開け放った窓。相変わらずの熱帯夜が運ぶ風。
地表面で蒸されたそれを思いきり吸いこんで、ゆっくり、ゆっくりと、肺を空っぽにしていった。