第2章 ● おしごとしましょ
「近年の最高気温上昇に伴いまして、本年度よりワタクシたちもお盆は二日ほど休養日が貰えることになったのでありますハイ」
「ふうん、あ、そ」
これである。
自分から質問しといて、ふうん、あ、そ。どんだけ気のない返事なのか。一生懸命答えた私の労力を返してほしい。
会話の間が合わない人やどうにも噛みあわない相手って、誰にでもいると思う。まさに黒尾くんがそれだ。
だから練習試合でも合宿でも、なるべく関わらないようにしてたのに。
なぜ、いま、ここで。
観客動員数が10万人を超えるフェス会場で、彼に遭遇しなければならないのか。
軽く悪夢である。
「んで、何、迷子にでもなった?」
「っへ?」
「あれ、木兎たちと来たんじゃねえの?」
「あ、ああ、いえ、私はバイトで」
「おー、マジでか、んじゃ丁度いいわ」
猫に睨まれた梟よろしく冷や汗をかいていた私。会話の最中も逸らしつづけていた視線を、ここでようやく黒尾くんに向ける。
相変わらずの寝ぐせ頭。
服装は割りとオシャレだし顔も悪くないんだから、髪型にも気を遣えばいいのに。ってそんな小言は置いといて。
「ちょうどいい?」
訝って問うた私に、黒尾くんは、些か居心地が悪そうに咳払いをしてからこう言った。