第2章 ● おしごとしましょ
「あ」
ちょうど手をかざそうとしたあたり。私より30㎝以上も高いところから特徴的な低音が降ってくる。
ひとを、小馬鹿にしたような。
相手を、常に挑発してる感じの。
──どこぞの猫の主将の低音だ。
「う、げっ、……さいあく」
ほぼ本能で全身の毛が逆立った。
ような気がした。
私は一応人間なので本当に逆立ったワケではない。でもそのくらいのレベルで威嚇しています、なう。
「ひとの顔見て第一声がそれかよ」
「あらご機嫌よう黒尾鉄朗くん」
「はい、こんにちは玉北夕璃さん」
「それではサヨウナラ」
「待て待て待て、逃げんなコラ」
和やかに挨拶だけ交わして逃げようと画策したのに、計画は見事失敗。
たやすく捕縛されてしまった右腕は、がっつりと鷲掴まれている。
ああ、いやだな。
苦手なんだこのひと。
なんか、話しづらい。
「こんなとこで何してんの? つーか梟谷(おまえら)お盆にオフとかあったっけ?」
威圧感たっぷりの彼。
猫の主将こと黒尾くんに気圧されて、私は、一歩どころか三歩くらい引いたところから言葉を返した。