第1章 ● はじまりの唄
普段通りのおやすみ、だったよね。ちゃんと冷静におやすみできたよね。
完全に電話が切れたことを確認して。
それから無言でガッツポーズをして。
「~~~~~っ!」
声にならない歓喜の叫び。
うれしい、とか。
だいすき、とか。
たくさんの感情が渦を巻いて、むずむずして、めちゃくちゃに暴れてしまいたくて。
ここが自分の部屋だったら今すぐベッドにダイブしてお気に入りのクッションに顔を埋めてごろんごろん転がるのに、ああ、もう!
それでも抑えきれない衝動をどうにかして治めようと、だいぶ勢いよく腰を反らして大きな伸びをした。
ら、洗濯物干すやつに手をぶつけた。
「あいだっ!」
すごく痛い。
「~~~……!!!」
今度は声にならない悲鳴が漏れる。
突指した左手を押さえてうずくまるベランダ、うっすらと滲む汗。
そのまま身を縮こめていると、少しずつ興奮が収まってきた。
痛みで頭が冷えたというやつだ。非常に不本意だけれども。
ようやく落ちついた心。
改めて確認する通話履歴。
菅原くん
そう登録してあった彼の名前を、ファーストネームに打ちなおす。
そんな些細なことがとってもうれしくて、またひとつ、口元が綻んでいく。