第1章 ● はじまりの唄
「……私の、彦星さま」
灯ったままの画面に指を滑らせた。
つ、となぞる彼の名前。
今、この場所に彼はいないけど、この画面のあちら側にはたしかに彼がいて。
繋がってるんだ。
離れてても、繋がってる。
だからもう寂しくない。
いまはそう思えるよ。
全部、あなたのおかげ。
あなたが教えてくれたの。
空の交換。分かち合う世界。見ている景色、触れる風、感じる音も何もかもが違うけれど、それは決して別々なんかじゃない。
はんぶんこ、なんだよね。
ほう、とこぼれる感嘆。
ほくほくした心とにやけた顔をキュッと引き締めて、ベランダを後にする。
冷えすぎの室内。
16℃の風が、轟々と。
「っご、ごめんて! もう許して!」
「嫌です許しません俺は怒りました」
「痛だだだ! ちょ、ムリムリムリ!」
私のひょんな発言からはじまった赤葦中心の恋バナ及びプロレス大会は、混戦の末カオスと化していた。
形勢逆転されてサソリ固めを決められている木兎は涙目で絶叫してるし、散々質問攻めにされて弄られた赤葦は激おこだし。
木葉はムービー撮るのに必死で、小見は爆笑。鷲尾は素知らぬ顔で、猿杙はいつの間にか爆睡してる。
何なの、馬鹿なの。
どんだけ自由なの。
アホ丸出しの部員たちをくるりと見渡して、嘆息。
夏休みの課題ノルマは結局まったく進まなかったし、あまりの喧しさに堪忍袋の緒が切れた木兎ママの一喝によって、本日の勉強会は幕を閉じた。
「コラ!光太郎っ! さっきからギャーギャーうるさいのよまったくアンタって子は! 大きいのは図体だけになさいっていつも言ってるでしょう!?」
梟谷名物その37──
怒ると超怖え木兎ママ(でも美人)
はじまりの唄 ● 了