第16章 さりげない優しさ
◆◇伊織視点
思ってもみなかった一言に私は思わず手の動きを止めて、彼へと振り返った。
目と目が合った瞬間、彼はにっこりと笑った。
黄「おなか空いてない?ちょうどご飯時って感じがするんスよねー」
俺もうペコペコなんスよ、とへらっと笑う彼の言葉にはわざとらしさが感じられなかった。
それもそうか。
何せ準決勝と決勝を1日で見るというスケジュールだ。昼前に来てからかれこれ5時間近く何も食べていないことになる。
おなかが空いていないかどうかと訊かれたなら、まるっきり空いていないというわけではない。
それでも我慢できる程度の空腹感だった。
伊織「えーと、んー…――」
笠「全く空いてないわけじゃないだろ」
返答に窮していると、それまで押し黙っていた笠松さんが不意に口を開いた。
伊織「それはそうですけど……」
黄「じゃあ決まりッスね!」
言うか早いか黄瀬君はケータイを取り出し、早速店を探し始めた。