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君が笑う、その時まで

第16章 さりげない優しさ


◆◇伊織視点

 黄瀬君が言うに、この近くに評判のお好み焼きの店があるらしい。
 ただし食事時には相当混雑するとの口コミもあり、状況次第で店を変えるという条件で私たちはその店に向かうことになった。

 会場を出ると、外は雨がしとしとと降っていた。

伊織「あ、雨」

 確か天気予報ではこれから断続的に強くなると言っていた。本降りになる前にぜひとも店に着きたいものだ。

 私は用意していた長傘を開いた。
 すると背後でがさごそと何かをあさる物音が聞こえてきた。

黄「あれっ?確か入れてきたと思ったんスけど……」

笠「何だ、傘でも忘れてきたのか?」

 どうやら黄瀬君が傘を忘れてきてしまったらしい。
 さっきから何度も鞄の中をあさってはみるものの、望みの代物が出てくることはなかった。
 
 黄瀬君はがっくりと肩を落としうなだれた。

黄「ううっ、何でないんスかー……」

笠「単純にお前が入れ忘れただけじゃねぇのか?」

伊織「ま。いい男は雨に濡れてもいい男って言うくらいだしそのままでもいいんじゃない?」

黄「ちょっ、ひどいっスよ伊織ちゃん!!」
 
 声を張り上げて糾弾したと思えばすぐにしょんぼりと肩幅を縮こませる。
 その姿は何というか……どこか放っておけない節がある。

 私と黄瀬君とでは実際かなりの身長差があるというのに、こうしてみると同じくらいに見えてしまうから意識というのは不思議だ。

 仕方ない。

 私は鞄のファスナーを開けてあるものに手をかけた。
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