第14章 夏のハジマリ
◆◇笠松視点
トイレに行く。そう言って伊織は観客席を後にした。
だが、伊織が本当にトイレに行くかどうかは疑わしい。
現にアイツが席を立ったのはケータイに着信が入ったからだ。
ケータイを確認した時のアイツは強張った表情をしていた。
俺ら2人を気遣ってか普段の軽いノリで出ていったが、正直あれは見え透いた嘘にしか見えなかった。
「――ねぇ笠松さん」
「んあ、何だ」
「さっきの……誰からの電話なんスかね」
コイツも気にかけているのか。伊織のことを……。
「さあな。試合が始まるまでには戻ってくるだろ」