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君が笑う、その時まで

第14章 夏のハジマリ


 外から帰ってくると、決勝戦はその半分以上が消化されていた。

 今は第3クウォーター終了間際。

「あ、伊織ちゃん!どこ行ってたんスかーもう!」

 心配したんスよーと口をすぼませる黄瀬君に対して、私は苦笑を漏らした。

「ごめんごめん。用事が長引いちゃって…で、試合はどんな感じになってます?」

「秀徳が優勢だな」

 ほら、と笠松さんが向けた視線の先にあるスコアボードを見る。

(苦戦を強いられているか……)

 全くの想定外だったわけではない。

 ただ、それでも信じてみようとは思っていた。

 どんなに可能性が低くても、ほんのわずかでもいい、勝つ可能性があるのだとしたら――

「黒子っち達大丈夫ッスかね。火神っち、相当ヤバいッスよ」

「ん?そうなの?」

 黄瀬君の言う火神の「ヤバさ」を確認しにコートを見下ろす。
 確かに火神は尋常ではないほどひどく殺気立っており、何度か無茶なプレーを繰り返している。

(自分だけで勝ちに行こうとするスタイルか……)

 不意に思い出す――思い出したくもなかった光景。

 それを必死に揉み消しながら、私はコートを見下ろした。

「……バカだよ、まったく」
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