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君が笑う、その時まで

第14章 夏のハジマリ


 そうこうしているうちに時間は過ぎていき、試合開始時間が近づくにつれギャラリーが賑わってきた。
 
 賑やか、というより騒がしい雰囲気は正直苦手だ。
 鞄から音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを耳につけて外からの音を遮断する。

 だから、気がつかなかった。

 肩をとんとんと叩かれ、反射的に振り返る。
 こんな所で知り合いに会うわけがない。そう高をくくっていた私はこの直後に自分の至らなさを痛感させられることになった。

「久しぶりッスね、伊織ちゃん!」
「…………何でいるの?」

 そこに制服姿の黄瀬君と笠松さんがいた。

「何で、って。今日は黒子っちと緑間っちの試合があるから見に来たッスよ!」

 なるほど。元チームメートの出場する試合を見に来たのか。

 合点がいって「そうなんだ」と相づちを打つ。

 黄瀬君は私の隣の席に手をかけて、「ここ、いいッスか?」と訊いてきた。

 私は「別にいいけど」と軽く受け流し、再びイヤホンを耳につけた。

 
 ……が。それでも誰かにじっと見られている感覚はなくならなかった。

「……何か?」

「伊織ちゃんてさ。どこかでオレと会ったこと、ない?」

 黄瀬君はじっと私の目を見据えてきた。蜂蜜色のきれいな瞳だとその時はじめて気づいた。

「誠凜との練習試合で会ってるけど?」

 すると彼は慌てて「そうじゃなくて」と否定し、困ったように苦笑した。


「何ていうか――中学の時試合で見かけたような気がするんスよ。
 バスケとかしてなかった?」

「……まさか。」

 私は溜め息まじりに苦笑した。

「見間違えじゃないの?」
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