第9章 練習試合
「……ん、伊織さん」
名前を呼ぶ声にはっと我に返る。眼前には、淡い色をした髪と眼をもつ選手がひとり。
「……相変わらず存在感無いね。黒子」
内心ひどく心がかき乱されているのを押し殺しながら、淡泊な口調で彼を茶化す。こんな時でも彼は決して怒らなかった。
「すみません。でも、いつもの伊織さんなら気付くと思ったんですけど」
黒子に言われ、私は咄嗟に彼から目を逸らした。その間にも彼の眼差しが痛いほど感じる。
目を逸らすと、依然として一方的につっかかる火神と軽い調子で受け流す黄瀬の姿がある。黄瀬のぞんざいな対応が火神を更に高ぶらせていく。
整列の号令がかかってもなお、止みそうに無い。
「……はぁ。」
私は溜息を吐いて重い腰を上げた。そして息を大きく吸い込み――
「ガタガタ言ってんな!実力どうこう言う前に試合に集中しろ!!」
瞬時に屋内が静まり返る。
当事者同士はおろか、誠凛も海常も、選手もベンチも観衆も関係なく視線が集まるその先で、私は声を張り上げてしまった。
はっと我に返ると、私は全員の視線を集める存在となっていた。
私はカゴを持ち、逃げるように体育館を抜け出した。