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君が笑う、その時まで

第8章 お手伝い


◆◇笠松視点
 
 そこに見知った顔を見つけた。

 森山に両手を掴まれた彼女は困ったように苦笑している。しかし当人は気付いてすらいないようだ。

「ったく、森山のヤツ……」
 俺は足早に2人のもとへ向かった。

「――試合見に来てくれたの?俺、今日は伊織ちゃんのために戦うから」

 バカヤロウ。

「チームのために戦えっての!!」

 森山の頭をはたく。その隙に見えた彼女の表情は心なしかほっとしているように見えた。
それも一瞬のことで、すぐさま森山が立ち直り俺を見やる。

「なんだ。笠松か」

「伊織を困らせんな。てか、シュート練済んだのか?」

「まだだ。シュート練が終わるまで伊織ちゃんを放っておけるか」

「ドヤ顔で言うな開き直ってんじゃねぇよ!さっさと終わらせてこい!!」

 森山を練習に戻らせ、肩の力を抜く。

「悪かったな。急に来てほしいなんて言って」

 今週末に練習試合がある。できれば来てほしい。――彼女にメールを送ったのは2日前。
 返事はすぐさま来て、結果として彼女が目の前にいる。

「いいですよ。どーせあっしは暇人ですし」

 そう言って伊織はお決まりのしたり顔をしてみせた。

(まだそんな顔をしてんだな……)

 昔と少しも変わらない、歪な笑顔。
 たいていはただの強がりでしかない、そんな表情。
   

「あんがとな」
 この時俺は伊織の頭を撫でることしかできなかった。
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