第8章 お手伝い
◆◇伊織視点
笠松さんやバスケ部監督である武内さんに挨拶を済まし、早速ドリンク作りに取り掛かることにした。
空のボトルが入ったカゴを両手で持ち、水場へと向かう。その途中、自然と視界に入る練習風景に思わず目を奪われる。
神奈川・海常高校。県内屈指のスポーツ名門校であり、古くから多くの部が全国大会に出場している。バスケ部もそのひとつで、インターハイ常連校であり、選手個人の能力値は当然高い。名門校と呼ばれる学校は基礎練習に抜かりはない。かつ、レギュラーであればあるほど基礎練習に手抜きはしない。
すべては勝つために――
「伊織、」
突然声を掛けられ、はっと我に返ると笠松さんがこちらに向かって駆けてきた。
「大丈夫か?」
私の顔をじっと見て、言う。
どうやら私はぼーっとしたままその場に立ちつくしていたようだ。
私は一息ついて、彼に向ってにししと笑った。
「何でもないですよ。それより、どうせ心配するなら練習試合の事を考えたらどうですか」
「………………。」
もの言いたげな視線が覗く。笠松さんは腑に落ちない表情をしていた。
ただ一言、無理すんなという言葉を残してコートへ戻っていった。
ほどなくして、体育館が俄かに騒がしくなる。
見やれば、海常とは違うジャージの集団が体育館に入ってきたところだった。
白地に黒と赤のラインが入ったそれを身に纏った彼らはどこかで見たことのある顔をしていて、それでいて私には彼らが一体どこの誰であるかが分からなかった。
あの一言さえなければ。
「お前っ――!!!?」
振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。