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君が笑う、その時まで

第28章 re:start


 頭上高く広がる夏空は清々しいほど青かった。

 彼に付き合って屋上に上がると覚悟していた暑さは一瞬のことで、心地よい風が吹いていた。
 私たちが来る前からベンチに座ってくつろいでいる患者が数人いたが、偶然にも空いているベンチがあり私たちはそこに腰掛けることにした。

木「元気だったか?」

 大きな手が私の頭を撫でた。
 190センチ以上ある体格の割に威圧感を感じることはなく、隣に座っていても不思議と緊張しなかった。

 私は「まあね」と首肯し、手にしていた袋を彼に渡した。 彼は袋を受け取り、すぐさま中身を確認すると俄に顔を綻ばせた。

木「つる屋の豆大福か。いつもすまんな」
伊織「もうひとつはおかみさんからの快気祝い」
木「おお、黒飴かー。退院したらお礼言いに行かんとな」

 そう言って彼は豆大福にかじりついた。もぐもぐと咀嚼(そしゃく)し、飲み込む。

木「んー、うまいな」
伊織「そ。よかったね」

満足げな表情を見せる彼を一瞥し、私は手にしていたペットボトルの水を口に含んだ。

木「――なぁ、」
伊織「ん?」

 それまで頬を緩ませて豆大福を食べていた彼が、ふと表情を引き締めて私に声をかけてきた。

 その表情を見て、私は彼がこれから言おうとしていることを何となく察していた。

 仲間思いでバスケ好きな彼のことだ。考えられるのはひとつしかない――

木「決勝リーグ。君にはアイツらがどう見えた?」
伊織「誠凜の試合、ね……」

 私の口から言えるのは、お決まりの屁理屈でしかない――

伊織「正直あそこまでくだらない試合を見ることになるなんて思ってもみなかった」
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