第26章 逃げ足とメガネ
桃「あの、今吉先輩」
ミーティングが終わり、先に体育館から上がろうとしたワシに突然桃井が声をかけてきた。
その顔はどこか不安げで、若干強張ってもいた。
今「ん、どないした桃井?」
桃「さっき誠凜の制服を着た女の子が体育館を覗いてたんです」
誠凜の女子?バスケ部のマネージャーか何かか?
桃「プール練習の時に見なかった顔だったんですけど……敵情視察かもしれません」
なるほど。明日の試合に備えて「最終確認」に来たっちゅーわけか。その心がけ自体は悪くない。
今「せやけど今更ワシらの練習を見てもなあ…何も得することあらへん――」
ふと視線を逸らして開け放たれたドア向こうを見やる。
今「……ふうん」
桃「今吉先輩?」
桃井の怪訝そうな視線に気付いて、ワシはへらりと笑った。
今「何でもない。わざわざ報告おおきにな、桃井」