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君が笑う、その時まで

第24章 ラッキーアイテム


 彼が鞄から取り出したのは――小さな紙袋だった。

緑「獅子座のラッキーアイテム、パンダのキーホルダーなのだよ」
伊織「……えーと、」

 どこからつっこめばいいのかな。

 見たことのある包装紙は確か近くのショッピングセンターにあるファンシー雑貨店のものだった。男子高校生が買いに行くには敷居がかなり高そうな気がする。
 一見真面目そうな彼が占いや運勢というものを信じているのも意外だ。
 
緑「今日のおは朝占いでお前の獅子座は最下位だったのだよ。
  もっと早くに渡すべきだったのだが……遅くなってすまなかった」


 そう言えば前に和成君が話していた。

 ――伊織ちゃん。コイツ、超がつくほどのおは朝占い信者なんだぜ?
 ――おは朝占い……ってあのおは朝の番組最後でやるアレ?
 ――そうそう。で、コイツはいっつもラッキーアイテムを持ってんの。

 その日は確か……狸の信楽焼の置物を試合会場に持ち込んでいたそうな。
 そこまでは目が行き届かなかったから直接見たわけではないけれど。


伊織「おは朝の?私に……?」
緑「ああ」

 彼がおは朝占いを信じているのは分かったとしても、だ。
 自分以外の運勢を気にかけて、わざわざラッキーアイテムを渡しに来る理由が分からない。

 私が首を傾げていると、痺れを切らしたのか、緑間君は少し苛立ったように「さっさと受け取るのだよ!」とパンダのキーホルダーを私の手の中に押し込めた。
 
緑「これで用は済んだのだよ」

 そう言って彼は背中を向けて昇降口へと足早に向かっていく。

 けれどもその途中でふと足を止めた。

緑「……その、なんだ。俺や高尾に迷惑をかけたなんて思うのはよせ。
  俺は……お前にラッキーアイテムを渡したかっただけなのだよ」

 そう言う彼の声は心なしか力んでいるように聞こえた。
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