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君が笑う、その時まで

第23章 微熱に注意


◆◇伊織視点

 くっそう、と心底悔しそうな顔をしながら高尾君はチャリアカーを引いて歩く。
 その速度はあくまで私の歩く速さに合わせており、非常にゆったりと進んでいた。

緑「大前、」
 リアカーで爪を磨いていた緑間君がその手を休めて私の方を向いた。

伊織「ん?どうしたの緑間君」
 そう言えばさっきも何かを言おうとしていた。あの時はマサさんに遮られて結局言えず終いだった。

緑「……お前、本当にバスケ部のマネージャーをやってないのか?」
伊織「は。」
 息が詰まる。刹那、ごほごほっと空咳がむせかえってきた。

 隣では高尾君が盛大に吹き出し、ケラケラと笑い出した。

高「いやいやいや。お好み焼きの後で何か抱えてるなーとは思ってたけど。
 ソレさっき俺が言った事じゃん!」
緑「高尾、少し黙るのだよ」
高「や、だってさ。……お前が真剣に悩んでたのってそんなことかよ」ブククッ
緑「…………。」イラッ

 いつぞやの「高尾、ちょっと来い」の雰囲気になり、近い将来緑間君が高尾君に制裁を下そうとしているのが何となく予感してしまった。
 ようやく咳の収まった私は慌てて2人の間に割り込んだ。

伊織「え、えーと。さっきも言ったとおり誠凜バスケ部のマネージャーじゃないよ」
緑「それ以前は?」
伊織「へ?」
 予想もしてなかったことを訊かれて私は無意識に足を止めていた。

緑「中学の時、お前はバスケ部マネージャーをしていなかったか?」

伊織「ちょ、ちょっと。何を根拠にバスケ部マネージャーだと思うの?」

緑「中学の時――おそらくお前に会ったことがあるのだよ」

高「はあっ!?」
 なぜか高尾君がひときわ大袈裟に声を上げる。

高「何ソレ!?初耳なんだけど!」
緑「どうなのだよ」

 2人の顔が迫ってくる。ひとりは好奇心を、もうひとりは疑念を向けて私の顔を覗き込んでくる。

 何かを言わなければと思った。
 何を言えばいいのかこの場が収まるのかを頭をフル回転させて「正答」を探した。
 けれども考えようとすれば考えるほど集中力が霧散していくようだった。

 加えて、彼の強い眼差しを向けられてその瞳の奥に確信めいた何かがあるかもしれないと思ってしまっては急に怖くなって見つかる言葉すら見つからずにいた。
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