第2章 ほうっておけない質(たち)なんです、の段。
倒れている人を助けたところで、ろくなことにならない。
それはわかっている。
わかっているのだが。
「これがお年寄りなら、もうちょっと素直に助けるんだけど…」
「ヘンなくノ一、っていう場合もあるぜ」
ひそひそひそひそ。
「おねえさん、おねえさーん」
ゆさゆさ。ゆさゆさ。
しんべヱはひそひそ話をしている二人を置いて、行き倒れたソレを揺り動かし始めた。
「っておい、しんべヱ?!」
「あーあ…助けちゃった」
「ったく、仕方ねーなー」
しんべヱの行動に二人は仕方なく、アレに駆け寄った。
「大丈夫ですかー?」
うつぶせに倒れていたソレを抱え起こす。
「ありゃりゃ」
「でっけぇタンコブだな」
仰向けにしてみれば、確かにコレは若い女性。
おでこに大きなタンコブがある。
「…もしくノ一か、忍者の変装だったとして…」
「こんな真昼間に、おでこにタンコブだろ?」
大したことないな。
と、満場一致した。
そんなわけで、三人は土井先生の家へ気絶したままの女性を連れて行くことになった。
「土井せんせー! ただいま戻りました~」
赤ん坊一人を抱っこし、もう一人を背負った男が振り向く。
「おぅ、おかえりきり丸」
「「土井せんせー! お邪魔しま~す」」
「おぅ…おおっ?!!」
きり丸の後に続いて至極当然、という顔で乱太郎としんべヱが入ってくるので、男は危うく赤ん坊を落としそうになる。
「ああびっくりした…お前たちどうしたんだ?」
「ぼくたち」
「夏休みの宿題を」
「「一緒にやろうと思って」」
真っ白でなんの書き込みも無いドリルを見せられ、赤ん坊を二人とも布団におろしながら男は大きくため息をついた。
こちらは土井半助。
忍術学園の教師で一年は組の担任である。
25歳独身だが、なぜ赤ん坊を抱いていたかというと、きり丸が引き受けた子守のアルバイトを押し付けられたせいである。
「まぁいい。それだけならまた変なことに巻き込まれたりはしないだろう」
その言葉に三人の頬がひくひくと引きつった。
「それで、魚は全部売れたのか? まったく、一匹や二匹残しておけばいいものを――おおおおおお??!!」
きり丸が引っ張ってきた桶の中を覗いた土井先生は、文字通りひっくり返った。