第8章 知らない方が幸せです、の段。
「それから」
「はい、なんでしょう?」
「きり丸から私のぶろまいどを買うのはもうやめなさい」
「えっ…」
なんで知ってるの?!と勢い良くきり丸の方を振り向けば、きり丸が両手を合わせて謝罪のポーズを取っていた。
「ごめんなさい…」
「いや、謝るのはこっちの方だ。きり丸が悪いことしたな。すまん」
「そんなこと無いです。おかげで私――」
「ん?」
「あ、いえ、何でもないです!!」
「そうか。それじゃ、私たちは学園長先生に報告に行くから。掃除、頑張って」
「はい! 土井先生、本当にありがとうございます」
ひらひらと手を振る土井先生に、椿も小さく手を振って返す。
学園長先生の部屋へ向かうその後ろ姿を見ながら、椿は熱いため息をもらすのだった。
廊下を歩いていく土井先生と乱太郎たちの前から用具管理主任の吉野先生が歩いてきた。
土井先生は先ほどと同じように懐から包み紙を取り出して。
「あぁ、土井先生。おつかいご苦労様です」
「いえいえ」
「ちょうど化粧用の紅が切れそうだったんです。助かりました」
「これ、残りのお金です」
「ありがとうございます」
二人のやり取りを見て、三人組は顔を見合わせる。
「吉野先生が使う化粧品って…」
「やめとけよ、乱太郎」
「首けしょ「しんべヱ!!」う」
「椿さんへの贈り物、これのついでだったんだ…」
「しんべヱ、ぜーーーったいに椿さんに言うなよ!?」
「うん、さすがにかわいそう……」
首化粧とは、戦で跳ねた敵武将の首を戦績の証として見せる際に見苦しく無いように見た目を整える際に行う化粧や髪結いなどのことを指すのである。
浮かれ気分で落ち葉掃除をしている椿のことを三人組が不憫に思うのは無理もない。
(((土井先生、最低)))
「ん? 何か言ったか?」
「「「いーえ、なんでもありません!」」」
「明日からこれ使おうっと」
うふふ、と嬉しそうに笑う椿。
しばらくの間、三人組は椿にとても優しかった。
〜おわり〜