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【落乱】花立つ人

第2章 ほうっておけない質(たち)なんです、の段。



「お、お前たち! コレをどこで拾ってきたんだ?!!!」

 土井先生は顔も声も大にしてわめく。
 出掛け、魚がびっちり詰まった桶の中に人間が入っていたのだ、無理もない。
 しかも女性。

「道端に倒れてたんですけど…」
 困った顔で乱太郎が桶の中を見やる。
「女の人だから、どうしようかと思って。戻してきましょうか?」
「いつも倒れてるのはお年寄りとヘンな忍者とヘンな海賊とヘンな剣豪ばっかりだもんなー」
「たしかにおかしい…が、戻してくるわけにもいかないだろう」
 きり丸の至極もっともな言葉に土井先生は神妙な顔つきになった。
「おかしかったら笑おう」
 はっはっはっ、としんべヱが笑う。

「……きり丸、布団の用意だ。乱太郎、この人を桶から出すから、ちょっと手伝ってくれるか」」
「「はーい」」
「ちぇっ…」
 スルーされてしんべヱはほんの少し涙ぐんだ。



「……魚くさくないか?」
「……そうですね」
 土井先生と乱太郎は布団に寝かされた女性を見る。
「しかたないだろ。おれたちが担いだらあっちこっちぶつけちまうよ」
 背負うのにもまだまだ身長の低い三人では、足を引きずってしまう。
「女の人だもんね」
 これまで土井先生宅に運び込まれたお年寄りとヘンな人たちは数知れず。
 大概が顔面強打して鼻血、もしくは頭にタンコブをつくった状態だった気がする。
 とはいえ、魚が入っていた桶に入れるという発想はないだろう。

「布団が魚くさくなる…」
 客用の布団があるわけでもないので、きり丸は当然のように土井先生の布団を用意していた。
 また明日干すしかないな、と思っていると布団の中の女性が身じろぎをする。

「んん……」
 ふるふる、と睫毛が揺れて瞼が開く。
「「「あっ気づいた!!」」」
「おい、お前た」ち、と言うが早いか、横たわる女性を覗き込もうと飛びついた三人。
 
 ガチーーン!!

「あいたたた…あれ、ぼくのメガネどこ?」
「いって…あ、めのまえにゼニがとんでる~」
「二人ともだいじょうぶ~?」
「まったく…三人同時につっこむんだから…」
 三人ぶつかった衝撃で吹っ飛んだメガネを乱太郎に渡して、土井先生は女性の顔を覗き込んだ。
 石頭のしんべヱと目の前をチカチカ飛んでいるお金を取ろうと手を振り回しているきり丸は無視である。


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