第8章 知らない方が幸せです、の段。
「…おかしい」
土井先生は、最近妙に羽振りがいいきり丸を見て呟いた。
食堂のランチ定食に小鉢が一つ増えている日が度々あるのだ。
それに、今日は町で買い食いをしている。
学園長先生のおつかいを引き受けた乱太郎、きり丸、しんべヱの三人のお守り役として、土井先生は忍術学園を出て町まで来ていた。
うどん屋でうどんを頼むときも、いつも素うどんなのに、今日はお揚げが入っている。
いつも通りかまぼこをきり丸のうどん鉢に入れつつ、土井先生は首を捻る。
「さては…夜のバイトを増やしたな?」
「えっ…や、やだなぁせんせい、ボクがいつ夜のバイトなんてしました??」
きり丸の顔と声がものすごく白々しい。
「鼠の糞集めに昆虫採集、それから春には…タケノコを掘ってただろう」
他人様の土地のタケノコをこっそり掘っているのは知っているんだ、と土井先生は言った。
「うっ…」
バレてる…と思いはしたが、それらは全て以前のこと。
ここ数日のお金の発生源は、実は目の前でガミガミときり丸に説教をしている土井先生、その人であった。
特盛りうどんを幸せそうに啜りながらしんべヱは乱太郎を見る。
(ねぇねぇ、あれってさぁ)
(しっ! 駄目だよしんべヱ、黙っててって言われたじゃない)
(あっ、そうだった)
ひそひそひそひそ。
「お前ら…なにか知ってるな?」
じとーーーっという目の土井先生に、乱太郎としんべヱは思いきり明後日の方向を見た。
「なんにも」
「しりませーーん」
「本当だな?」
「はい! きり丸が土井先生のブロマイドを椿さんに売っているなんて、知りません!」
胸を張ったしんべヱに、乱太郎ときり丸が目を剥く。
「「しんべヱ?!!!!」」
きり丸はすぐに我に返って、枠線から飛び出るほど顔を大きくして怒鳴った。
「なんで言うんだよ!!」
「ご、ごめ~~ん」
「しんべヱ…正直に話してくれたことは偉いと褒めてやろう」
土井先生によしよしと撫でられて、しんべヱはでへへ~と相好を崩す。