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【落乱】花立つ人

第7章 皆揃っていただきます、の段。


「それじゃ、いただきます」
「「「「いっただきまーーす!」」」」
「いただきます」
 手を合わせてから、一斉に箸を取る。
「うん、おいし~い」
 うふふふ、としんべヱは幸せそうな顔。
 土井先生もパクリと一口かぶりついたのを見届けてから、椿もいただきます、と手を合わせた。
(土井先生を見ながらご飯が食べられるなんて…幸せ…)
 里芋の煮っ転がしを箸で掴むときに浮かぶ、人差し指の筋。
 お椀を持つ左手。
(お、お椀になりたい…!)
 そんな椿の心など知りもしない土井先生は、じっと自分の手元を見てくる彼女の視線を勘違いして、
「ちょうどいい柔らかさだし、味も染みてて美味しいよ」
 と声をかけてきた。
「あ、はい、いえ、良かったです…!」
 ただ見とれてただけなんです、とはさすがに言えない。
 そして今も、ご飯を飲み込む喉元が色っぽいと思っていたなど…知られるわけにはいかなかった。
(はぁぁ…目の前でご飯食べてるのってこんなにドキドキするものなの?!)
 胸が一杯で箸が進まない。
「椿さん、ご飯食べないの?」
 だったらぼくに頂戴?とでも言わんばかりのしんべヱに、椿はハッと我に返った。
「ちょ、ちょっとボーっとしてて…」
「しんべヱ、ほっといてやれって。今はご飯どころじゃねぇんだから」
「椿さんはゆっくりご飯を食べてるだけだもんね」
 ニヤニヤとした視線を送ってくるのはきり丸と乱太郎の二人。
「う、うん…!」
(あ、秋休み中ずっとこんな感じなのかな…色々と心臓が持たないかも…)
 はぁ、と椿は小さくため息をついた。
(思ってることが全部顔に出とるのぉ…)
 山田先生はしみじみそう思いながら味噌汁を啜る。
(半助は椿くんの気持ちには気づいておるようだが…)
 くるくる変わる椿の表情を、土井先生はいつも面白そうに盗み見ているのだ。

「そういえば…最近、利吉さん忍術学園に来ないですね」
「ん?」
「お元気にしてらっしゃるのでしょうか?」
 喜三太が首を傾げて山田先生に尋ねてくる。

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