第7章 皆揃っていただきます、の段。
教科書を持って教室に土井先生が入ってきた。
先の授業は山田先生の実習で、校外ランニングだったらしい。
どれだけ走ったのかはわからないが、乱太郎たち四人は…特にしんべヱは疲れきっていた。
「全くお前たちは…本当に体力がないのぅ」
先頭を走ってきたという山田先生が困ったもんだ、と嘆く。
「餌がなくとも走り続けられるようにならんとな」
その言葉に土井先生が「まさか」と口に手を当てる。
「そのまさかじゃ。きり丸の目の前には銭、しんべヱの前にはお菓子、喜三太の前にはなめくじを吊るした」
「へ、へえええ…」
乱太郎は足が速いし、きっと山田先生のすぐ後を走っていただろう。
問題は後ろの三人だ。
目の前にそれぞれの大好きなものをぶら下げて走る様子を想像すると、胃がキリキリと痛むような気がした。
「はぁ…それじゃ、授業を始めるぞー」
「「「「はーい」」」」
「…寝るなよ」
「……善処しまーす」
「ぐう」
「言ったそばから寝るんじゃないっ!!」
土井先生はすぐさましんべヱにチョークを投げつけた。
授業を後ろで見守ろうとしていた山田先生も早々に大きなため息をついたのであった。
カーン、とお昼の鐘が鳴る。
「よーし、午前の授業はここまで! 皆で食堂に行くぞー」
はーい、と良い子の返事。
授業でもこうだったらいいのになぁ、なんて思いながら。
六人でぞろぞろと食堂へ向かう。
食堂の暖簾をくぐると、すでに全員分の膳が並べられていた。
「一番大きなお魚はどれかな~」
しんべヱときり丸が目移りしていると、土井先生が何かに気づいたようで、素早く席についた。
「私はここで」
「……椿さーん、ここだけ平天がありませーん」
「ちょ、おい、乱太郎! 言うなよ!!」
「え?」
台所から、両手に味噌汁椀を持って椿が現れる。
「ああ、ごめんなさい。数が足りなくて…」
そう言いながら椿は味噌汁がまだ乗せられていない膳に味噌汁を配る。
「…数が、足りない、ねぇ?」
「ねぇ?」
きり丸と乱太郎が意味ありげに顔を見合わせる。