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【落乱】花立つ人

第7章 皆揃っていただきます、の段。


「土井先生、秋休み中は私がご飯作りますので、何か食べたいものがあったらおっしゃってくださいね」
「椿くんが?」
 書きものをしていた手を止めて、土井先生が椿を見る。
「はい。食堂のおばちゃんもお休みを取るので、その間は私が食事を作ります」
「へぇ。家に帰りたくないの?」
「帰りたくないというか…土井先生がいらっしゃるので」
「…あ、あー、そう」
「ご迷惑でしたか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないよ」
 椿が土井先生のことを好いているということを、全校生徒はもちろん土井先生自身も知っている。
 とはいえ、面と向かって好意を伝えられた、伝えたことはない。
 土井先生としては悪い気はしていないのだが、椿のことが好きかと問われれば、よくわからない。
 可愛らしい、と思ってはいるのだが。
 土井先生は妙な無言が流れる前に、
「それで、松千代先生に報告を?」
 と声をかけた。
「はい。一人で帰ってね、って言おうと思いまして。…まぁ、一緒に帰っても別行動にはなるんですけれど」
「ん? なぜだ?」
 きょとんとした表情で土井先生は首を傾げた。
「恥ずかしいと言って、道なき道を行ってしまうんです。私は普通に道を歩きたいので」
「あー、松千代先生、恥ずかしがり屋さんだもんなぁ」
「あと、私の後ろに隠れて歩くのでそれは私が恥ずかしいです」
「あー……そう、そうだな…」
 半眼になってため息をつく椿に、土井先生は苦い顔をするしかなかった。


「「あの」」
「「はい?」」
「「いえ」」
「「………ふふ」」
 同時に声を上げて、同時に返答し、同時に遠慮してしまった。
 二人はお互いを見合い笑いあう。
「椿くんからどうぞ」
「あ、大したことじゃないんです。その、お好きなものをお聞きしようと思って」
「ああ…練り物以外なら大丈夫だよ」
 にっこり笑う土井先生に、そういう意味じゃないんだけどなぁと思いながら、椿はそうですか、と頷いた。
「それで、あの、土井先生は先ほどなんと?」
「ああ。別にこれも大したことじゃないんだが…」
 じっと見つめられて、椿はドキリとする。
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