第7章 皆揃っていただきます、の段。
「あー、土井先生またかまぼこ残してる~」
「こ、こらきり丸! 大きい声で言うんじゃないっっ!」
土井先生の焦ったような声に椿はふふ、と口角を上げる。
食堂のおばちゃんが包丁をふるう隣で、椿は他の生徒が食べ終わった食器を洗っていた。
(土井先生、かまぼこ嫌いなんだ。可愛い…。嫌いなものを最後まで残しちゃうなんて…)
ちなみに椿は嫌いなものは一番最初にまとめてごっくんするタイプである。
「椿ちゃん。いくら土井先生だからと言って、お残しを許したらダメだからね。その場で代わりに食べてあげるのもダメだよ!」
おばちゃんが心配そうに椿を見て言った。
(ダメなのか…)
残念そうな顔をしたのがバレたのか、おばちゃんは大きなため息をつきつつ笑う。
「アンタは本当に土井先生が好きなんだねぇ」
「…はい」
「でも甘やかしちゃダメだからね」
「…はーい」
そう返事をしながら、土井先生の向かいに座るしんべヱを見やる。
この間は、しんべヱの嫌いなワカメと土井先生の嫌いなかまぼこを交換しているのを見つけた。
おばちゃんに言いつけたりはしないけれど、椿はしんべヱが羨ましくて仕方が無かった。
というより、生徒全体が羨ましい。
大体、自分は食堂のお手伝いをしているものだから土井先生と同じ時間に食事をすることはできない。
一度でいいから、隣や目の前に座ってご飯を食べられたらなぁ…と思っているのだ。
土井先生は生徒からとても好かれていて、一人で食堂にやってきてもその前や左右はあっと言う間に埋まってしまう。
は組の三人がいればいつもその近くの席に座っている。
(いいなぁ…)
「かまぼこ残すなてなんべん言うたらわかるんじゃ! このばかたれが!!」
パカーン!と小気味良い音が鳴る。
おばちゃんがお盆でお残しをした者の頭を打つ音だ。
(土井先生は忍者なのに、どうしておばちゃんの攻撃を避けないのかなぁ)
どう考えても避けられるはずなのに。
あのぽっこり膨らんだタンコブになりたい…そして土井先生の手でさすられたい。
(…なんてね)