第1章 後悔はいつでも後からやってくる、の段。
椿が戸に手を書ける前に、サッと戸が開いた。
「伝子よ~~~!」
「ぎゃあああああ!!」
いかつい顔がどどんと眼前に迫っていて、椿は思わず叫び声をあげた。
「あら、アナタ…どこかで見た顔ねぇ?」
(ああぁぁぁぁびっくりした…やっぱりあの伝子さんだった…!)
ドッドッドッと走る心音を落ち着かせるべく、椿は深呼吸を繰り返す。
「お、お久しぶりです…あの、私、椿です。その節はお世話になりました」
「ああ~! 思い出したわっ! 元気にしてた?」
「ええ、まぁ」
「また浮かない顔してどうしたのよ?」
「じ、実は――」
かくかくしかじか。
「素直と言えば聞こえはいいけど…騙されやすいのは困ったものね」
「…やっぱり、騙されてるんですかね?」
もしかしたら、彼はこの城のどこかにいるのでは。
そして椿を迎えに来てくれやしないだろうか。
「…前言撤回よ。素直じゃなくて、タダの馬鹿ね」
「うっ…」
眉をハの字にして伝子さんはため息をつく。
「二度も騙されて連れて来られるなんて…」
その言葉に椿の目がとてつもなく泳いだ。
「アナタまさか……正直に言いなさい、これが何度目なの?!」
「いや、その、え~っと…」
どんどん泳いでいく目を伝子さんがパシッと捕まえて元の位置に貼り付ける。
「何度目なの?」
微妙に傾いた状態で目を貼り付けられたため、椿はそれをそっと戻しながら親指から順に一つ、二つと指を折る。
薬指のところでチラリと伝子さんの様子を伺うと、般若のような顔をしていた。
(こ、こわっ…!)
そして小指まで来て折り返し。
中指まで来たところで伝子さんの目は点になった。
「もういい…」
そう言って頭を抱える伝子さん。
「あ、あの…そんなに落ち込まないで」
「だ・れ・が・落ち込むか! 呆れてるんじゃ!!」
くわっ!と目を剥かれて椿は一歩後ずさる。
「あ、す、すいません…」
「まぁったく、最近の若いもんは危機感がなさすぎる…」
かくして、オカマにしか見えない伝子さんと男に騙されやすい椿の女中生活が始まった――。