第1章 後悔はいつでも後からやってくる、の段。
伝子さんは皆があまり好まない掃除の担当を志願したらしい。
というわけで、椿が起きたときには隣の布団はもぬけの殻だった。
繕い物を貰いに洗濯担当の女中のところへ行くと、伝子さんを含めた数人が井戸端会議をしていた。
伝子さんはかなりおしゃべり好きらしく、繕った着物を元の持ち主のところへ運ぶため炊事場を通りがかれば、そこでも伝子さんが話しに花を咲かせていた。
気づけば伝子さんがどこにでも顔を出しているので、いつ掃除をしているのだろう?と思うほどである。
そうして数日経った日の夜。
城内が騒がしくなり、門兵たちが右往左往と走り回り出す。
すわ夜襲か?と思うような砲撃の音の中、椿はぐっすりと眠っていた。
隣の伝子さんがいつの間にかいなくなっていたことにも当然気づかなかった。
そして翌日、椿を含めて全ての女中が解雇されることになった。
戦の準備をやめるらしい。
突然仕事が無くなった雇われおば様たちの猛口撃により、お給金は手に入れることができた。
「伝子さん、またいなくなっちゃったなぁ…」
部屋には、彼女がいた痕跡は何も残っていなかった。
(またどこかのお城で会えるかな?)
そう思いながら、椿は家路に着いた。
半月ぶりの我が家である。
そろそろ兄が単身赴任から帰ってくる頃だ。
家を空けていたのがバレたら(というより男にまた騙されたのがバレたら)面倒である。
駆け落ちします、というような内容の手紙を置いてきてしまったので、兄が戻ってくるより先に家にたどり着いて手紙を処分しなくてはならない。
ここに来るまでに山を三つ突き抜けてきたのだが中々に遠い。
行きはあの男と会話を楽しみながらルンルンでやってきたのだが、帰りは一人。
今更ながらに、あの男のことを考える。
(顔は良かったんだけどなぁ…よく考えたら、性格悪かったような気がしないでもない。なんでこんなとこまでついてきちゃったんだろう)
どうしてもっと早く気づけないのか。
(不思議だわ…)
顔のいい男にめっぽう弱い。
それが椿という娘である。
~おわり~