第6章 伝言"ゲーム"じゃありません、の段。
椿は頭を抱えたくなった。
(どうしよう、こんなんじゃ土井先生に伝えたって分からないに決まってる…。山田先生を探した方がいいのかも)
伝言の一つもまともにできないなんて、と思われたらどうしよう。
土井先生に呆れられるのは困る。
「あっ土井先生」
「ええっ?!」
「しんべヱ、椿くん。こんなところでどうした?」
職員室から出てきた土井先生に椿は焦った。
「土井先生、山田先生から伝言です」
「おっご苦労」
そんなの伝えたってわかるわけないじゃない!という内心で椿はしんべヱを見守った。
がしかし。
「…………」
「しんべヱ?」
何も言わないしんべヱに土井先生が声をかけると、しんべヱは黙って椿を見上げた。
「な、なに?」
「ぼく、椿さんに伝えたから忘れちゃった…」
「えっ?!」
嘘でしょ?私にあんな意味不明な伝言言わせる気なの?!と椿はしんべヱに詰め寄りたい気持ちになった。
しかし、土井先生の手前そんなことはできなくて。
「え、ええっと、あの…」
「ん?」
しどろもどろになって冷や汗をかく椿の顔を土井先生が覗き込んでくる。
「あ…」
椿は咄嗟に視線をそらして、観念したように息を吐いた。
「えっと、しんべヱくんから聞いた伝言は…」
「伝言は?」
「『日本、実話の誤解、琵琶が工面、蝶野ツボ、ウニよりチューハイ』、だと、言うことです…」
恥ずかしくって、語尾は消え入りそうなほど小さい声になってしまった。
「えと、あの、しんべヱくんはきり丸くんから、きり丸くんは乱太郎くんから聞いたとのことで…」
決して私が間違えたわけではないのだ、と椿は言葉を重ねた。
「うーん……」
土井先生は小脇に抱えていた出席簿を両手に持ち替えて逡巡する。
その間、しんべヱの顔をじーっと見ていた。
「――そーか、午後の会議は中止だな」
椿はずっこけた。