第6章 伝言"ゲーム"じゃありません、の段。
乱太郎が両手に書物を持って廊下を歩いているときだった。
「おっ、乱太郎。伝言たのむ」
後ろから追いついてきた山田先生に声を掛けられる。
「はいっ」
「土井先生に、『本日の午後の会議は学園長のつごうにより中止』と伝えてくれ」
「わかりました」
乱太郎はしっかりと頷いて、再び歩き出す。
土井先生は今どこにいるだろうか。
と、軒先を出たところで箒を手にしているきり丸が目に入る。
「あっ、きり丸」
「なんだ?」
「土井先生に伝言してほしいんだけど」
「いいよ」
「『本日の碁の会、議は額面帳のつごうにより虫垂』ですってさ」
「? なんじゃそりゃ」
意味不明な伝言にきり丸は左眉だけをひん曲げて首を傾げたが、乱太郎はそのまま書物を持って去っていってしまった。
そのきり丸の後ろをしんべヱが水の入った桶を持って歩いていく。
「あっしんべヱ。いいところへ」
きり丸は、今度はしんべヱに伝言を託すことにした。
「伝言たのむ」
「なんどす?」
「土井先生、『日本実の碁の怪、琵琶が工面、蝶のつごうが虫垂』とお伝えしてくれ」
「それどういう意味や?」
しんべヱはわけがわからないと困惑した表情を見せる。
「さぁ…暗号じゃない? 先生どうしの」
「なるほど!!」
納得したしんべヱは土井先生に伝言を伝えるべく職員室へと向かっていた。
すると前から椿がやってくるのが見えた。
「あ、しんべヱくん。こんにちは」
「椿さん、こんにちは」
「先生方に御用?」
「はい。土井先生に、山田先生からの伝言があるんです」
「そう。私で良かったら伝えておくけど」
椿はにっこりと笑った。
土井先生に声をかける口実だ。
「じゃ、お願いします」
「うん、任せて」
嬉しそうにする椿に、しんべヱは今しがたきり丸から聞いた伝言を口にする。
「『日本、実話の誤解、琵琶が工面、蝶野ツボ、ウニよりチューハイ』ですって」
「…えぇ?」
それ伝言なの?と椿は眉間に皺を寄せる。
「ちょっと待って、それって山田先生から直接聞いたの?」
「ううん。きり丸から」
「きり丸くんから?」
「そう。きり丸は乱太郎から聞いたって」
「…そ、そう…」