第5章 おしくらまんじゅう押されて泣くな、の段。
「っていうことがあったんです」
「あ、そ、そうなの…」
確認って、結果って、もしかして、いやもしかしなくてもこれのことだったのか。
椿は開いた口が塞がらない。
(なにそれ…ドキドキして損した……)
美味しい思いはしたけれど。
(なんだかなぁ…)
普通、確認のためだからって女の部屋に、しかも真夜中、そして布団の上で。
「あんなこと…」
(しないでしょ、普通は)
寝巻き一枚で横たわる女の隣に寝そべって、後ろから抱きしめるなど。
「あああ、もうどうなってるの…?!」
土井先生のことがわからない。
(しかもしかも。椿、って…一回だけだけど、呼び捨てだった…)
椿が土井先生のことを好きだということは、当に知られている。
面と向かって言ったことはないけれど。
(期待しても、いいのかな)
これまでだったら、すぐに舞い上がって気持ちを伝えていた。
けれど、土井先生は今までの男たちと全然違う。
裏切られて、捨てられてきたからこそ、これまでの男を忘れることは簡単だった。
でも土井先生は違うのだ。
思いを伝えて振られたとき。
(きっと、土井先生のことを忘れるなんてできない…)
これが、本物の恋だと思うから。
「土井せんせー、おはよーございまーす」
「おっ、おはよう、乱太郎、きり丸」
「おはようございます」
「椿くんも、おはよう」
にっこり笑う土井先生。
暑さで眠れなかった、という気を全く感じさせない爽やかさだ。
と、土井先生が声を顰めて椿に耳打ちする。
――いくら忍術学園が安全だからと言って、昨日のは無防備すぎるぞ――
椿は石のように固まった。
~おわり~