第5章 おしくらまんじゅう押されて泣くな、の段。
「あついっ!! これじゃとても寝られないよ」
乱太郎は犬のように舌を出しながら団扇をパタパタさせる。
あんまり暑いので寝巻きはほとんど肌蹴ていた。
「おい乱太郎、あれやろうぜ」
そういうきり丸も右肩を出している。
「しんべヱはどうする?」
がーがーぐーぐー、この暑さにも堪えることなくしんべヱは大きないびきをかいていた。
「ほっとけよ、平気で寝てるなんて気味が悪い」
きり丸はそう言って乱太郎と一緒に廊下に出た。
と、向こうから庄左ヱ門が袖を肩までまくった状態でやってくる。
団扇を持ったままの乱太郎が先に声をかけた。
「お、庄左ヱ門。あれ、やってみないか」
「ボクもそう思ってみんなをよんできた」
虎若が「誰の部屋でやるんだ?」と言うので、団蔵が「伊助のとこ」と答え、は組はワイワイと伊助の部屋へ移動した。
「なんか寮が騒がしいな」
横になっていた山田先生と土井先生が寮の騒がしさに気づいて部屋を出る。
は組の部屋はほとんどがもぬけの殻。
しんべヱだけがぐーすかと眠ったままだ。
土井先生は何事かと首をひねる。
「このくそ暑いのに何を騒いでおるのだ」
と、山田先生がワイワイとうるさい伊助の部屋に足を踏み入れた。
「おっ…」
一瞬、山田先生は絶句してすぐに我に返った。
「な、な、なにをやっとるのじゃ…おまえたちはっ!?」
「うわ~…」
二人が見たものは、しんべヱを除く全員で体を寄せ合いごちゃごちゃとひっつきあっているは組だった。
「あ、先生」
「自分の部屋で寝なさい!」
山田先生は唾を飛ばす勢いで怒りだす。
しかし、乱太郎が訴える。
「先生、今夜の気温、何度あるか知ってますか?」
「39度ですよ39度!!」
気温計(うそやで~)を握り締めてきり丸が叫んだ。
「? それがどうした?」
「人間の体温はせいぜい36度でしょ」
「だから…」
乱太郎ときり丸は再びべったらこ、とは組のみんなにくっついた。
まるでおしくらまんじゅうのようだ。
「こうしてひっついているほうがすずしい!!…はずです」
乱太郎の言葉に、山田先生は「気色悪ゥ…」と眉を顰めた。
「しょーもないこと考えとらんとさっさと寝ちまえっ!!」
土井先生は歯茎を剥き出しにして怒鳴り、パカッと人数分の小気味良い音が響いた。