第5章 おしくらまんじゅう押されて泣くな、の段。
「って、全然おしくらまんじゅうじゃないですよ!」
「気にしない気にしない」
土井先生が笑うと首筋に吐息がかかる。
「ど、土井せんせっ…!」
好きな人にこんなことをされて、平静なんて保っていられない。
椿は慌てて体を起こし、布団の上に座り込む。
「あ…!」
布団の上で何度も転がっていたからか。
パラ、と帯が解けて上前が開きそうになる。
「み、見ないでください…!」
咄嗟に土井先生に背中を向け、椿は動揺しながらも帯を締めようとする。
しかし、手が震えて上手くいかない。
こんな夜中に男女が同じ布団の上にいる、という事実が椿を追い詰めていた。
「椿くん」
「え…」
後ろから両手が伸びてくる。
椿が握っていた帯を取り上げ、慣れた手つきで締められる。
「きつくはないか?」
耳元で土井先生が尋ねてくる。
「は、はい…」
ドキドキしながらやっとのことで椿は頷いた。
「そう。それじゃ、結果もわかったことだし、私は部屋に戻るよ」
土井先生はそう言ってスッと立ち上がる。
「へ…」
ポカン、とした顔の椿。
土井先生はおやすみ、と椿の頭を撫でてから、何事もなかったかのように廊下の先に消えていった。
「な、なんだったの、いったい…」
何が何だかわからない。
結果ってなんのことだろうか。
椿は頭を抱えながら夜明けを迎えることとなった。