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【落乱】花立つ人

第5章 おしくらまんじゅう押されて泣くな、の段。


 じっとりした空気の中。
 全く風はないのに、椿の頭の中は台風のようになっていた。
 さっきよりも格段に体温は上がっている。
「…やっぱり、くっついていると暑いな」
 ふふ、と土井先生が声を漏らすと、その吐息が首筋にあたる。
「んっ…」
 ぞくり、と肌があわ立った。
 思わず椿はお腹辺りに回された土井先生の腕を掴む。
(あ…)
 しっとりと汗ばんだ腕。
 浮き出た血管と、硬い筋肉が男を感じさせる。
 出席簿とチョークしか扱っているところを見ないのに、とても逞しい。
 きゅうう、と体の奥が締め付けられるような感覚に陥る。

「椿…」
 一瞬、呼ばれたのかと思った。
 しかしそうではなく、土井先生はただ彼女の名前をつぶやいただけ。
 土井先生の手が腹のあたりから移動してくる。
 そこで椿ははっとした。
(ど、どうしよう…今、寝巻き一枚しか着てない…!)
 する…と大きな手のひらが椿のわき腹を撫でて。
(わ、わ、わ…! それ以上は…!!)
 顔から火が出る、なんてものじゃない。
 自分が爆発するんじゃないかと思うほど、体はカッカして心臓が驚くほど早く鳴っている。
 ごくり、と唾を飲み込んだら。

「っくく…」
 背中に伝わる振動で、土井先生が笑っているのがわかった。
「椿くん、体に力入りすぎ、だ」
「だ、だって…!」
 土井先生がこんなことするから…!
 椿は上ずった声で抗議する。
「こんなことって?」
「こ、こんな…く、くっついて…」
 相変わらず、土井先生は椿を後ろから抱きしめたまま。
 椿は身動き一つ取れない。
「そりゃあ、くっつかないとダメだろう」
「な、なんでですか?!」
「だって」
「だ、だって…?」
 椿は再びごくりと唾を飲む。
 もしかして、と淡い期待が広がる。


「おしくらまんじゅう、だからな」



「…………はい?」
 "オシクラマンジュウ"とはなんぞや。

「オシクラマンが十人?」
「ひーろーものじゃない」
「おしくら、まんじゅう…?」
 それって、お尻で押し合い圧し合いするアレのことですか。

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