第4章 リンスを忘れちゃいけません、の段。
きっと土井先生は何も意識していないはず。
握り返さないのは失礼にあたるだろうか?
握り返したら…相手が子供じゃないことを思い出して、手を離されはしないだろうか。
どうするのが正解なのか、椿にはわからない。
本音を言うと、手を握りたい。
あなたが好きです、と心を込めて。
近づいていく校舎が遠のいてくれはしないかと、馬鹿なことを考える。
土井先生を見ると、ニコニコと楽しそうだ。
時計台を過ぎて、校舎の中へ入って。
階段を上っていく。
(あああ、もう教室についちゃう…!)
ええいままよ!と椿は土井先生の手を握り返した。
と、それに反応したのか、教室の前についたからなのか、最後にぎゅっと握り返されてから手が離れた。
(土井先生…)
最後に握り返された手の感触が甘く残る。
それは、ただ手が離れただけとは異なる熱い余韻。
(わかってやってるのかな…)
恨めしい、そう思って見上げれば「ん?」と涼しい顔でこちらを見た。
黒い頭巾から痛んだ前髪が出ていて、その下の瞳はいつもいつも優しくは組を見守っているのだ。
は組が羨ましい。
けれどは組になりたいわけじゃない。
椿はそんな気持ちを抱きつつ、土井先生に問いかけた。
「あの、面白いものって…?」
「教室に入ったらすぐわかるさ」
ガラリ、と戸を開けては組の生徒を見渡す、までもなく。
「失礼しま…んん?! し、しんべヱくん、その髪…」
サイヤ人もびっくりの逆立ち具合と、黒々とした硬そうな髪に椿は驚いた。
「さ、触っても…?」
「てっぺんに触ると刺さるから気をつけてね」
「え…乱太郎くん…刺さるってどういうこと?」
刺さるなど、髪の毛を触るときに到底気をつけるような事柄ではない。
「一本一本が針みたいになってるんだ」
きり丸の説明に椿は恐る恐るてっぺんからしんべヱの頭を覗いてみた。
「わぁ…うん、確かに…針山みたいね。これ一体どうしたの?」
「鋼鉄より硬いしんべヱの癖毛です」
「くせげ…?」
この子達の言ってることが理解できない。
鋼鉄より硬いってどういうこと。
困惑して椿は土井先生を見ると、至極楽しそうな顔で笑っていた。